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札幌地方裁判所 昭和43年(行ウ)4号 判決

札幌市南一条東四丁目七番地

原告

遠藤勲

札幌市北三条西四丁目

被告

札幌中税務署長

清水正次

右指定代理人

岩佐善已

斉藤祐三

大熊正丸

梶川正徳

幾島賢作

今井一次

永谷卓

笹谷幸三

平岡孝吉

右当事者間の課税処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

1  原告

被告が昭和四一年一二月一九日付をもつて原告に対してなした物品税ならびに無申告加算税および物品税再更正ならびに加算税各賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

(本案前の答弁)

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第三、当事者の主張

1  原告の請求原因

(一)  被告は原告に対し昭和四一年一二月一九日付をもつて、左記物品税等の賦課決定(以下これを一括して本件決定という)をなした。

物品税金 八三五、九七〇円 無申告加算税金 八一、八〇〇円

物品税(再更正)金 六六、七九〇円 加算税金 二、七五〇円

(二)  そこで原告は被告に対し同四二年一月一八日右決定につき異議の申立をなしたところ、被告は国税通則法第八〇条に基づき同申立を審査請求とみなして札幌国税局長に送付し、同局長は原告に対し同年一〇月三一日付をもつて審査請求を棄却するとの裁決をなし、同裁決書は同年一一月一五日原告に到達した。

(三)  ところで本件決定は、原告が卸売業者であつて物品税の納税義務がないにもかかわらず、小売業者と認定して物品税法第三条第一項により前記のとおり物品税等を賦課した違法がある。すなわち、

原告は貴金属類の販売を業とするものであり、北海道職員互助会および林野庁共済組合札幌支部ならびに同組合旭川支部から取引商社として指定許可を受け、取引をしていた。右団体はいずれもその事業目的のなかに物資の購入に関する事業および職員の福利増進に関する施設の経営という項目があり、右団体は右目的の趣旨に沿つて取引商社を指定し、職員に対して廉価に物資の斡旋、媒介をしており、右団体から取引商社として指定許可を受けた者は右団体と物品売買契約を締結し、さらに右団体がその構成員に対し販売するものである。このことは取引の方法が、右団体から商品価格の承認を得た取引商社が物品を展示し、購入者が確定した時に、それに応じた数量の物品を右団体に納入し、その代金を右団体から受領することからも明らかであり、従つて右団体が小売業者であつて、取引商社は卸売業であるから、その取引商社である原告は卸売業者である。

(四)  よつて原告は本訴において本件決定の取消を求める

2  被告

(本案前の抗弁)

原告のみなす審査請求に対する札幌国税局長の裁決は昭和四二年一〇月三一日になされ、この裁決書は同年一一月七日原告に送達され、これにより原告は右裁決のあつたことを了知した。そして原告の本件訴は昭和四三年二月一四日に提起されたのであるから、行政事件訴訟法第一四条が定める、裁決を知つた日から三ケ月以内の出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下さるべきである。

(請求原因に対する答弁)

請求原因(一)の事実は認める。尤も物品税については昭和四二年一月二七日付の再更正により五〇〇円減額された。同(二)の事実中、裁決書が原告に到達した日時を争い、その余の事実は認める。同(三)の事実は争う。

3  本案前の抗弁に対する原告の答弁

原告は昭和四二年一一月五日から同月一五日まで山越郡長万部町二股ラジウム温泉に滞在していたもので、裁決書の送達を知つたのは帰宅した同月一五日である。従つて、出訴期間の進行は右一五日から進行すべきであるから、原告の本件訴は出訴期間内に提起された適法なものである。

第三、証拠

1  原告

甲第一号証を提出し、乙第一ないし第三号証の成立は認める。

2  被告

乙第一ないし第三号証、同第四号証の一、二を提出し、証人笹谷幸三の証言を援用。甲第一号証の成立は不知。

理由

一、先ず被告は原告の本件訴が出訴期間経過後に提起された不適法なものであると主張するもので判断する。

(一)  被告が昭和四一年一二月一九日付をもつて原告に対し本件決定をなし、原告が右決定につき札幌国税局長に対してなした審査請求につき、同局長が昭和四二年一〇月三一日、審査請求棄却の裁決をした事実は当事者に争いがない。

成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、右裁決書は昭和四三年一一月七日原告住居に書留郵便によつて配達されたことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

されば他に特段の事情のない限り、原告は右同年一一月七日に右裁決のあつたことを知つたものと推認すべきである。

(二)  そこで原告の同年一一月五日から同月一五日まで山越郡長万部町二股ラジウム温泉に滞在し自宅には高校生の子供が留守番していたため、右一五日に帰宅してはじめて右裁決書の送達を知つたとの主張につき判断するに、公文書であつて真正に成立したものと認められる乙第四号証の二と証人笹谷幸三の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証(証明書)には右原告の主張に副う記載がある。しかしながら右乙第四号証の二、証人笹谷の証言によれば、右甲第一号証はその作成者である由井元康が原告の要請に従い、その内容を確認せずに押印し作成したものであつてその記載は必ずしも真実に副わないことが認められるのでこれを採用し得ず、かえつて右各証拠によれば昭和四三年一一月五日から同月一五日までの間原告は右二股ラジウム温泉には滞在していなかつた事実が認められるので、右原告の主張はとうていこれを採用することができない。

(三)  そうだとすれば、原告の立証によつてはいまだ前記推認を覆えすことができず、他にこれを覆えし得べき特段の主張、立証がないので原告が右裁決を知つた日は、前認定の裁決書が原告に送達された昭和四二年一一月七日であると認めざるを得ない。

そして原告が本件訴を提起した日は昭和四三年二月一四日であることは記録上明らかである。

(四)  そうだとすれば、原告の本訴提起は行政事件訴訟法第一四条に定められた出訴期間である裁決を知つた日から三ケ月以内の満了日である昭和四三年二月七日より後になされたもので不適法であるから、本案につき審理するまでもなく却下すべきである。

(五)  よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 松原直幹 裁判官 吉平耕平)

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